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悪行の聖者 聖徳太子
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| ジャンル: | 歴史,日本史,西洋史,世界史
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聖徳太子があまりに狭量すぎて共感できない
「悪行の聖者」というタイトルから想像したのは、自らの手を血に染めながらも、衆生のため、大義のために、確固たる信念をもって改革を遂行していく太子の姿です。しかし、この太子に果たしてそんな信念があるのだろうか。最初の天皇暗殺にしても、大義のためではなく、「仇討ち」という極めて個人的な理由から行ったもので、しかも仇討ちに至るまでの経路は完全に馬子の思惑通りで、太子は馬子の手のうちで踊らされているだけである。そのあとも、ついカッとなって女を手篭めにしてしまったり、とにかく度量が狭い。タイトルの「聖者」という言葉が完全に浮いてしまっている。作者は太子が仏の教えを広めているから、彼を「聖者」としたようだが、仏教の布教=聖者という図式にも疑問を覚える。それに仏教に関する太子の知識もまだ中途半端なもので、論争で百済の僧にやり込められてしまうなど、聡明さの欠片もない太子というのも、なんだか白けます。
太子が天皇にならなかった理由にも作者なりの答えを出していますが、それも三流の昼ドラのような理由で、史料の裏づけも何もない。いくら、人間らしい太子を描くと言ってもこれは酷すぎるだろう。馬子との確執に奮闘しながらも、自身の政策を反映させるために、名より実を取っていった黒岩氏の太子像に比べ、この太子は数段劣ると言わざるをえない。期待していただけに、残念です。
人間、聖徳太子を生き生きと描いた作品
この著者の一連の作品は、われわれにあまり馴染みのない古代を舞台としています。今回の作品は、前作の卑弥呼の時代から数世紀経過したヤマトの国が舞台です。しかし、まだまだ社会の規模は小さく、天皇一族も地域社会の名士といった程度の存在でした。
そういう時代に生まれた聖徳太子(厩戸皇子)ですが、同時に10人の話しを聞くことのできる能力を持つスーパーマン。叔母でもある推古天皇の摂政として、冠位十二階、十七条憲法と次々に国家の基盤を作り上げていきました。また、法隆寺を建立し、仏教の布教に力を尽くした偉大な人物としても知られています。しかし、それだけの業績があり、かつ、天皇の血筋を引いていながらも、皇太子のまま生涯を終えているのです。何故でしょうか?この小説はその疑問に正面から取り組み、新たな衝撃の解釈を示した物です。
しかし、この小説の素晴らしさはそういう新解釈の衝撃によるものだけではありません。なにより、小説の中の人物達が、生身の人間として命を吹き込まれているのです。まだ、神や自然が人と共に在った時代の物語でもあります。主人公厩戸の少年時代の大事件、弟である来目との絆、妻や子との生活、そして、なによりも父、母、そして推古天皇との関わりなどなど、ページを繰る手ももどかしく、一気に読み終えてしまいました。
我が国、最古の歴史書である「日本書紀」「古事記」の執筆よりも一世紀以上前の時代の物語です。古代史にはまだまだ沢山の謎と、そしてロマンが秘められているのだろうと考えてしまいました。
小説好き、ミステリー好きには、おすすめの1冊です。
新人物往来社
虚空の双龍 下 虚空の双龍 上 日輪(ひ)の神女(かむめ) 日輪(ひ)の神女(かむめ)―紅蓮の剣 古代史の闇と聖徳太子信仰の謎―聖者と鬼を結ぶ隠された糸
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